耳から出血する・・・そんな時は
耳から出血している場合は、耳介、外耳、中耳、内耳などに異常がある可能性が高いです。どこに問題が起きているのかを調べて、適切な治療を行いましょう。
原因
耳からの出血の原因として多いのが耳かきです。外耳道の皮膚は外側へと移動するため、耳垢が溜まることはほとんどなく、耳垢のせいで聞こえが悪くなる耳垢塞栓という状態はかなりまれなケースです。加えて、外耳道の皮膚は薄く、耳垢はそれを保護して雑菌から守る役割も果たしています。そのため、耳そうじは頻繁に行わなくても問題なく、むしろやり過ぎから病気になることもあります。
耳そうじには綿棒などやわらかなものを使用し、できるだけ優しく行いましょう。また、間違った耳そうじで耳垢を奥に押し込んでしまうことも多いです。耳そうじは保険適用となりますので、小さなお子様などの耳そうじがうまくできないという場合は当院までご相談ください。
出血が起こっている場所
耳介
耳の皮膚は薄いため、小さな傷でも出血しやすい傾向があります。さらに、後耳介動脈や浅側頭動脈といった動脈が通っているため、小さなダメージでも大量出血しやすいのです。もし出血してしまった場合は感染防止のために清潔なガーゼなどで止血した状態でご来院ください。
外傷を放置した結果、耳介軟骨膜炎などを引き起こし、耳介が変形することもあります。柔道選手などに多い柔道耳(耳介血腫)はその例で、何度も強い圧力を受けたことで皮下出血を起こし、耳介が変形した状態です。
外耳道
外耳道とは、耳の穴の入口から鼓膜までの間のことです。外耳道や鼓膜から出血があった場合、その原因として圧倒的に多いのは耳かきです。前者はしばらくすると血が止まりますので、さほど心配はいりません。後者は痛みが強いものの、出血量は多くありません。
加えて、耳への平手打ちやボールが強くぶつかった時、外耳道が炎症を起こしている時(外耳道炎)にも出血がみられる他、鼓膜からの少量出血は水疱性鼓膜炎で水疱が破れたことが原因となっている場合が多いです。
中耳
鼓膜によって外部と隔離されている中耳は、外傷による出血はほとんどないものの、中耳炎などの病気から耳だれに出血が混じるケースがよくみられます。中耳炎の種類によって違いがあり、急性中耳炎が悪化した場合は耳だれに鼓膜からの血液や炎症による出血が混じることがあります。化膿することもある慢性中耳炎の場合は、その膿に混じって血液がみられます。真珠腫性中耳炎の耳だれも血液が混ざることがありますが、こちらは他の中耳炎に比べてひどい悪臭があります。
内耳
内耳では、目立った出血はほぼみられません。例えば側頭骨を骨折し、それが内耳や外耳道にまで達しているなどのケースに限っては出血がみられることがありますが、ごくまれなケースです。疾患によっては、内耳内の動脈やその分枝である小血管から出血が起こることもありますが、外部からわかるような出血ではありません。
耳の皮膚がん
数少ないケースではありますが、肉芽など炎症性の腫瘍が変性して耳にも皮膚がんができます。中耳がメインですが、耳介に出ることもあります。よくあるのが、中耳炎の治療をしている途中で発見されたというパターンです。進行すると痛みや出血があり、難聴、耳鳴り、めまいなどを訴えるケースもあります。平衡器官や神経系にも影響し、顔面神経麻痺、吐き気や嘔吐といった症状が現れる可能性もあるため、注意が必要です。
考えられる疾患と治療方法
耳介の外傷
耳は大量出血しやすい箇所です。小さな傷からびっくりするほどの血が出たという経験がある方もいるかもしれません。これは耳の皮膚が薄いことと、後耳介動脈や浅側頭動脈などがあることが関係しています。焦らず、清潔なガーゼなどで止血し、傷が深いようであれば受診してください。
耳介軟骨膜炎
耳介は感染や炎症を起こしやすく、その原因は圧迫やピアスなどの外的刺激から菌が発生しているケースがほとんどです。これは耳介の上皮が薄く、3分の1ほどが軟骨であるという構造上から、どうしても起こりやすいのですが、中には感染から耳介軟骨膜炎を引き起こすケースがあります。耳介軟骨膜炎は、初期には耳介表面の赤みやほんの少し腫れがみられる程度ですが、進行すると徐々に腫れが強くなっていき、熱感や疼痛を伴うこともあります。その後、血腫ができて最終的に耳介が変形してしまいます。初期段階で治療すれば耳介の変形は避けられますので、赤みや腫れを感じたらまずは冷やして、速やかに受診してください。
治療では腫れに対する冷却と、炎症を鎮めるための抗生剤や消炎鎮痛剤を処方します。炎症の強さによっては、ステロイドの塗布や注射を行います。もし耳介軟骨が出てきてしまうほどに症状が進行したら、保存療法または手術という方法になります。
耳介血腫
耳介血腫とは、いわゆる「柔道耳」のことです。耳に対する過度な刺激は皮下出血を引き起こしますが、それが度重なることでやがて血腫になります。初期では皮下に紫色のような腫瘤がみえますが、時間の経過とともに黄色い液状になります。結果、感染による耳介軟骨膜炎を起こし、軟骨が変形してしまう可能性があります。
針を使って、血腫に詰まったものを吸い出すことが治療となります。さらに、耳介両側にガーゼタンポンを縫合固定し、滲出液が溜まる空間がなくすことで再び滲出液が溜まって血腫ができるのを防ぎます。また、軟骨の変形については形成手術を行ったり、誘導管を用いて滲出液を出すこともあります。
耳かきなどによる外傷
外耳道は耳掃除などの刺激で出血しやすい箇所ですが、これは皮下組織がないに等しいためです。出血してもすぐに止まることが多いですが、かさぶたがかゆくなってかきむしり、また出血するという悪循環に陥りやすく、そこから感染を招くことがあります。出血は自然に止まることがほとんどですので、患部をいじらないようにしましょう。
外耳道炎
外耳道炎の原因は耳かきによる傷が多いですが、健康な状態であれば自然に治っていくことがほとんどです。ただし、免疫力が低下している場合(糖尿病や免疫疾患があるなど)には再発することがあります。レアケースではあるものの、緑膿菌が原因菌となる悪性外耳道炎(進行性の外耳道炎)を発症すると、外耳道周囲の軟骨や骨を破壊して頭蓋内にまで達することもあります。
主な治療は、外耳道を消毒し、患部に抗生剤や副腎皮質ステロイド薬の入った軟膏を塗ることです。
外耳道湿疹
外耳道湿疹と外耳炎が合わさると強いかゆみを覚えますが、患部に触れるのはできるだけ避けましょう。 むやみに触れると知らず知らずのうちに角質をこすって剥がしてしまい、悪化して耳だれが出るようになります。シャンプーや化粧品などに含まれる化学物質の刺激が原因となり、アレルギー体質などから発症しますので、まずは思い当たるシャンプーや化粧品の使用を中止し、早めに受診してください。ステロイド軟膏の塗布、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬などで治療を行います。
真菌感染
真菌とはカビの一種で、感染すると非常に強いかゆみが出るのが特徴です。真菌感染は、抗真菌薬の塗布や内服で治療しますが、外耳道炎の合併症として真菌感染が起こることがあります。この場合は外耳道炎の治療で使用している抗生剤や副腎皮質ステロイド薬が真菌を増殖させている可能性が考えられるため、薬の切り替えを適切なタイミングで行うことが必要になります。
外傷性の鼓膜穿孔
必要以上の耳かき、平手打ちは鼓膜からの出血の原因になりますが、出血量自体は少量で、止血するまでもないことがほとんどです。中には聞こえ方に悪影響が出ることもありますが、これは鼓膜を修復すれば戻ることが多い一時的なものですので心配はいりません。
鼓膜に穴が開いた場合は、鼓膜に隔てられて無菌状態であるはずの中耳に細菌などが侵入するようになるので、結果として中耳炎を引き起こしやすくなります。穴が塞がらない場合は鼓膜形成術として、人工鼓膜を挿入する鼓膜穿孔閉鎖術を行います。約30分で終了する日帰り手術になります。
水疱性鼓膜炎
その名の通り鼓膜表面に水疱ができます。痛みや聞こえにくさといった症状が現れ、水疱が破れてしまうと少量ですが出血する場合もあります。止血しなくとも血は自然と止まりますが、炎症を抑える、感染予防をするなどの処置を行います。原因は未だはっきりしないものの、インフルエンザなどのウイルス感染が関わっているとされています。
中耳炎
中耳炎は小さなお子様がかかりやすいイメージがありますが、大人がかかるケースもあります。発症すると耳だれや膿や滲出液などに血液が混入したものがみられます。清潔なガーゼなどで止血を行い、早めに受診しましょう。
再発率が高く、悪化した場合は骨を溶かしてしまうという特徴を持つのが中耳炎です。初めにかかるのは急性中耳炎であることがほとんどなので、初めて急性中耳炎にかかった時に完治するまで治療を行えば、他の中耳炎に進行する可能性が低くなります。症状が軽くなったからといって治療を途中でやめた場合、滲出液が鼓室に溜まる滲出性中耳炎や鼓膜に空いた穴が塞がらない慢性中耳炎になったり、上皮組織が球状に増殖する真珠腫性中耳炎や鼓膜が中耳粘膜に癒着する癒着性中耳炎に移行して鼓室形成手術で鼓室の再建が必要になることもあります。そのため、症状が軽いうちにきちんと治すことが重要です。