外傷性鼓膜裂傷
外傷性鼓膜裂傷は、直接的または間接的な外力が鼓膜に加わることによって生じる損傷です。
直接的な外力としては耳かき・綿棒が多く、間接的な外力としては平手打ちや爆発等があります。
症状
受傷後におこる疼痛、出血、難聴、耳閉感、耳なり、めまい等です。
治療
損傷が鼓膜に限局している場合は、経過観察のみで自然に治癒することがほとんどです。
自然に穿孔が閉鎖しない場合、特殊な膜をはったり穿孔辺縁に薬を塗ったりして、閉鎖を促します。
それでも閉鎖しない場合は鼓膜形成術(接着法)の適応となります。
また、損傷が耳小骨や内耳に及ぶ場合、早急に治療を開始する必要があります(特に内耳に及ぶ場合)。
受傷後に上記の症状が出た場合は、直ちに耳鼻咽喉科を受診してください。
受傷直後の鼓膜
受傷後6週目
手術方法
鼓膜形成術
鼓膜形成術とは、鼓膜に穿孔があった場合にその穿孔をふさいで、新しい鼓膜を再生させる手術です。
鼓膜形成術の手術方法には、形成材料を残っている鼓膜(残存鼓膜)のどこにつけるかで、主に3通りの方法があります。残存鼓膜の内側からつける方法をアンダーレイ(Underlay)法、外側からつける方法をオーバーレイ(Overlay)法、鼓膜の表皮層と固有層(鼓膜は3層から成り立っています)の間に挟みこむ方法をインレイ(Inlay)法またはサンドイッチ(Sandwitch)法と呼びます。
通常、鼓膜の形成材料を固定するために、術後1週間は耳の中にガーゼを入れておかなければならず(パッキングといいます)、2週間くらいの入院が必要です。
鼓膜形成術(接着法)
接着法はアンダーレイ法の一つですが、残存鼓膜と形成材料の固定にフィブリン糊を使用するため術後のパッキングが不要になり、日帰りまたは1泊程度の入院で手術可能となりました。日本では当院院長が、1989年に初めてこの接着法を日本耳鼻咽喉・頭頸部外科学会誌に発表し、接着法は耳鼻咽喉科領域での低侵襲性手術のさきがけとなって、全国的に普及しました。
適応
接着法の適応は基本的に他の鼓膜形成術と同様で、鼓室に病変が無く、穿孔を仮に紙や綿などで閉鎖したときに十分な聴力改善が認められる場合です。その他、聴力に関係なく穿孔が原因となる耳漏を停止する目的でも適応となる場合があります。
※一見単純な鼓膜穿孔のようにみえる症例で、鼓膜の内側面に鼓膜表面の表皮層(角化重層扁平上皮)が存在することがあります。このような場合には、鼓膜形成術が適応とならず、鼓室形成術が必要となる場合があります。
手術方法
- 鼓膜形成材料の採取(耳後部の皮下結合組織)
- 穿孔辺縁の切除
- 形成材料の残存鼓膜への接着(アンダーレイ法)
- フィブリン糊による固定
皮膚切開は基本的に鼓膜形成材料部のみで2~3cm程度です(外耳孔が小さい例や外耳道が湾曲している例などは、外耳孔上方に1~2cmの皮膚切開が必要となる場合があります)。術式は簡潔ですので通常30~40分ぐらいで終了します。
鼓膜形成術(接着法)後の鼓膜所見
接着された鼓膜形成材料には、1ヶ月位すると血管が伸びてきます。その後形成材料は徐々に薄くなってきて、場合によっては完全に吸収されてしまいますが、その間に鼓膜が再生し穿孔は閉鎖します。
術後の再穿孔の割合は20%前後と他の術式に比べやや高いですが、この再穿孔の多くは術後の外来処置(手術時に採取した皮下結合組織を凍結保存したものを使用)にて閉鎖可能で、最終的に95%の穿孔は閉鎖します。